全ての自然派農家が目指す地力のある畑とは?草や虫たちが地力を作る?:自然農Q&A
自然農Q&Aは、自然農についてよく聞かれる質問に対して、そーやんがズバッとお答えしちゃうコーナーです。
なんて新米農家の僕が勝手にやってたら、ベテラン自然農家の方々に怒られそうですが、暖かな眼差しで見守ってください。
今回はとっても根源的なテーマ、「地力(ちりょく)」についてです。
自然農に限らず、農業にとってとても重要なキーワードである「地力」ですが、これがどういうものなのか、自然農ではどうやって地力をつけているのか解説いたします。
実際に野菜の手入れをする上でも、この点を理解していると、どう対応するべきか判断がしやすいのではと思ってます。
一般的にも農家の間で、この地力という言葉はよく使われています。
「あそこの畑は地力があるから、よく野菜ができるよ」というような言い方です。
そのような言い方をする場合、地力とはその土地の基礎力、まさに地の力(じのちから)を示していると言えると思います。
そのような畑は一般的に、肥料をたくさん入れなくても、農家が手をあまり加えなくても、健康的な野菜がすくすくと育ちます。
これはその野菜に必要な、栄養素、水分、酸素などが、適切なタイミングで適切な量を土から供給されていることを意味しています。
まさに畑として理想な状態です。
一般的に誤解されやすいのが、「地力がある状態」=「土の中にある栄養、水分、酸素の量が多い」ととらえることです。
肥料を入れたり、耕して土中に酸素を供給して、水やりをすれば地力がつくのかというとそうではありません。
それらは生態系の循環における「一部のパーツ」でしかありませんので、それらが持続的にスムーズにめぐっていなければなりません。
そうでなければ毎回野菜を作るたびに、大量の資材を投入しなければならなくなります。
ここで大切になるのが「回流性」という考え方です。
回流性とはなにか
この「回流性」という言葉は、確か現代農業かなんかの「地力」についての話のところで、大学の先生的な人が使っていたものです。(記憶があいまい)
この記事を読んだとき、「だから自然農では虫や草などの生き物の多様性が、野菜が育つのに重要と言われているのか!!!」
と、めちゃくちゃ納得しました。
それを考えると、まさに自然農は究極的に「回流性」のある状態を目指しているかなり理にかなった農法だなと思いました。
畑において回流性が良い状態とは、経済に例えると景気の良い状態と似ていると思います。
景気の良い、悪いはそこの市場にあるお金の量とは関係ありません。
市場の中で必要なところに必要な額のお金が、スムーズに流れグルグル回っている状態を景気が良い状態だと言えます。
畑においてもその野菜に必要な栄養素が、必要なときに必要な分だけ提供されることが理想です。
多すぎても少なすぎてもいけません。
この本当に野菜が欲している栄養の量とタイミングと種類を私たちが把握することは大変難しいことは想像に難くないでしょう。
しかし回流性の良い畑においては、私たちがそこまで厳密に野菜が何を欲しているか分からなくても、
勝手にその生態系ネットワークの中で必要な栄養素が最適なタイミングで創出され、過不足なく提供されていくのです!(すげー!!!)
これってほんとにすごいと思いません?まったく過不足ないんですよ?完璧なタイミングなんですよ?
まるで魔法のような話ですが、実際に自然界ではこれが当たり前のシステムとして働いているんですよね。確かに自然界からゴミは出ないし。
一見すると自然の生き物たちは、食物連鎖の中で殺し合う乱暴な世界で生きているようですが、全体で見れば一切無駄のない奇跡のような流れの中に生きているのですな。
この自然界の仕組みをうまく利用するのが自然農の知恵と技術なんじゃなかろうかと、僕は考えています。
次はそこらへんを詳しく見ていきます。
自然農ではどうやって回流性の良い畑を実現しているのか
回流性を良い状態にするために重要なのは、生き物たちが作る生態系ネットワークです。
このネットワークがバランスを保ち、その中でスムーズに栄養素や酸素、水分などが創出、循環、蓄積されている状態が理想です。
この状態を目指すために有機農業では、よく微生物や菌を利用します。
堆肥の中で微生物を増やし、同時に微生物の餌を土中に供給することで、土中の生き物を増やします。
化学肥料などのように単なる栄養分だけでなく、有機堆肥や微生物を投入することでより安定した地力を得ることが可能になるのです。
自然農では何かを足すことでそのネットワークを作るのではなく、そこにある生態系ネットワークをそのまま利用し、その中に野菜という植物もうまく仲間に入れるように手を貸します。
ただ畑を自然に任せていれば良いということではありませんので、ご注意を。
やはり自然農であっても適切に手を入れることが重要です。
なぜなら私たちの目的はあくまでも「野菜を手に入れること」であり、自然界の「生態系を豊かにすること」という目的とは必ずしも一致しないからです。
野菜がうまくその自然の生態系ネットワークに入り込めるように、手をかけてあげることがどうしても必要になるのです。
まさにこの点で、自然農はこの「自然」と「農」の折り合いをつけていく技術と知恵と言えます。
自然農の三原則と地力の関係
最後に自然農の三原則について、この地力という観点から考えてみたいと思います
地力とはつまりその作物が育つのに必要な栄養素、酸素、水分などを、適切なタイミングと量を持続的に供給できる畑の能力のことだと考えます。
それを実現するために自然農は、生態系ネットワークを利用するわけです。
そしてそのための基本原則が「耕さない」「持ち込まない、持ち出さない」「草や虫を敵としない」ということです。
①耕さない
耕すということは、自然界の地力を増やすための不断の営みと、その積み重ねをバラバラに崩壊させてしまうことですから、耕さないことは回流性の観点から見ても非常に重要なポイントです。
②持ち込まない、持ち出さない
みだりに畑から資源を持ち去る、または持ち込むということもそこで十分バランスがとれていた生態系ネットワークを壊すことに繋がります。
厳密に言えば収穫という行為は持ち出す行為です。
しかし農業は自然を破壊する行為だから、「自然な農」って矛盾してるのでは?-自然農Q&A-という記事でも書きましたが、収穫物として多少持ち出したとしても、安定した柔軟な生態系ネットワークをそこに形成できていれば、多少それを壊したとしても十分に次の野菜を作るまでに地力を回復させることは可能なのです。
また少し壊しすぎてしまった場合でも、補いをすることによって、そのネットワークの回復を早めることも可能です。
「肥料と補いの違いについて」はまた詳しく別の記事に書こうと思います。
③草や虫を敵としない
一見、野菜の生育を邪魔しているだけのように見える雑草や害虫も、その畑の地力を形成する生態系ネットワークの一部であるということが理解できていればその意味が見えてくると思います。
野菜ができないことを草や虫のせいにしてはいけないということです。
これは決して自分のせいにしろということではありません。
問題は私たちが野菜とその他の生き物の折り合いを、うまくつけれないことにあります。
その事実をそのまま受けとめることで、私たちはその問題を根本から解決できるということです。
以上長々となってしまいましたが、地力って何なのというお話でした。
これで少しは自然農が肥料なしで、またはほんの少しの補いだけでも野菜ができてしまうことの理由が見えてきたのではないでしょうか。
あとは実際にやってみるのが一番分かるかと思います。